競技人生が交錯する90分。

勝負の世界と言うのは皮肉である。

今日のチャンピオンズリーグ準決勝2試合目、ユベントスはレアル・マドリードを合計スコアで撃破し、見事に、そしてしたたかに、12年ぶりとなる決勝に駒を進めた。
伝統の白と黒のストライプではなく、2年前のレアル・マドリードのアウェイユニフォームを彷彿させるブルーのAWAYユニフォームを身にまとい値千金の1点を奪った背番号9は、マドリードの下部組織で抜群の成績を残し17歳で当時のモウリーニョがトップチームに昇格させたが、出場機会を見出せず、機会を求めユベントスへと昨年夏に移籍した。ちなみにモラタは第1戦でも試合を動かすゴールを決めている。

スペイン代表の前線の未来を担うこの22歳だけではない。サイドライン際を躍動した33歳のエブラも、マンチェスターUから峠を超えた選手として、モラタと同じく今シーズン前にユベントスに新天地を求めた。そのマンチェスターUはチャンピオンズ・リーグの舞台にすら立てていない。

ユベントスの、そしてイタリア人の永遠のアイドル、ロベルト・バッジョ、デルピエロと、今では肩を並べるほどファンから崇拝される背番号10の小柄なアルゼンチンストライカーも、マンチェスターシティから問題児として2年前に放出された。100億円の価値があるとして連日移籍の噂が絶えないフランスの若き才能ポグバも、マンチェスターUで陽の目を見ずに、3年前の19歳の時にビアンコネロのユニフォームに袖を通し、一気に開花した。遡れば、中盤に君臨する至宝ピルロも、ミラン在籍当時、監督と折が合わずにユベントスへと移籍した。言うまでもなくその監督とは、アッレグリ。今シーズン開幕直前にコンテが突然辞任したことから、ACミランを解任されフリーになっていたので横滑りの格好で急遽就任したが、蓋を開けてみればユベントスを決勝に進めた立役者である。

一方のレアル・マドリードは、選手の能力を数値化するゲームでもあるとすれば、今年もチャンピオンズリーグを制覇していたかもしれないが、大金を叩いてかき集められた白い巨人は、結局PKで得た1点しかあげられなかった。クリスチャーノ・ロナウドは明らかに焦りと苛立ちから精彩を欠き、昨年の今頃はチャンピオンズリーグ決勝でゴールを決めその地位を確実なものにしたかと思われたベイルは連日のブーイングで完全に自信を失っており、昨年のW杯で一躍スターとなったハメス・ロドリゲスはユベントスの守備陣に完全にシャットアウトされた。

ユベントスを率いていた頃、セリエAで2位が続きシルバーコレクターと比喩されたカルロ・アンチェロッティは敗退を告げるホイッスルの瞬間、何を思っただろうか。トリノの地を去った後、ビッグクラブを渡り歩き名将の地位を着実に築いていったアンチェロッティだが、ユベントスはその間、カルチョスキャンダルにより2度の優勝(スクデット)剥奪と、屈辱的なセリエBに降格させられた。まさにどん底から這い上がり、12年の時を経て欧州最高の舞台に帰ってきたのである。元監督である、名将アンチェロッティの前で、マドリード育ちのモラタのゴールによって。逆に敗戦監督となったアンチェロッティは果たして来期、サンチャゴベルナベウの指定席に座っているだろうか。

試合の結果というのは、ピッチに立つ選手の能力値だけでなく、選手と監督の競技人生が交錯し、それぞれの意地と執念が個々の能力を時に爆発させ、それが結果的にチームの総合力として最終的なスコアボードに表れることを今日の濃密な90分が改めて教えてくれた。結果は選手と監督の新たな査定となってその後の競技人生をいたずらに左右する、世界最高峰とはまさにシビアである。

6月6日の決勝はバルセロナが有利である。あの完成度は、グラルディオラが作った黄金期とはまた違う、新たなサッカー史を作り出している。しかし18年前、ユベントス絶対有利と言われたチャンピオンズリーグ決勝で、ドルトムントがユベントスを破ったのを思い出す。間違いなく言えるのは、ドラマチックでスペクタクルな90分。ただそれだけである。